ホリエモンが消された夏、希望無き国の格差問題
実質的に戦後初めてとなる政権交代が実現しようとしているにもかかわらず、ますます、この国が内向きになっていると感じるのは何故なのだろう。この4年で世界は大きく変わったが、この国においては何事も変わっていないし、変わるとも思えない。
4年前の郵政解散総選挙を色々な意味で象徴していたのは、ホリエモンの出馬だった。
若者や個人投資家たちにカリスマ的な人気を持っていた、時代の寵児、堀江貴文が、郵政民営化に賛同して小泉純一郎の刺客候補となって、広島六区で亀井静香とぶつかった。
国家元首になろうとしたホリエモン
堀江は政治家になったら、日本に大統領制を導入して、元首としてリーダーシップをとりたいと公言していた。ホリエモンを支えていたライブドアの個人株主たちも堀江の政界への転身を喝采した。当時、ライブドアの株主総会の中継を見て驚かされたことだが、そこに参加していた人々は老若男女あらゆる社会階層の人々が集まっていて、さながらミニ国家のような様相を呈していた。高輪プリンスホテルの飛天の間を埋め尽くした株主たちを前にして壇上に立ち、「そこの座れないおじいさんに席をゆずってあげて」と声を張り上げて指示していたホリエモンの姿が印象に残っている。
堀江にとって、政治とは、株主の利益のために企業を成長させるのと同じように国民のために国家を経営することであり、経営者であることと政治家になることにはさしたる差異は無いと考えられていた。政治を自分の会社のように運営できればいいと考えたからこそ、大統領制の導入や、議員に当選してもライブドアの社長は辞めないといっていた。ピーク時には22万人を数えたといわれるライブドアの個人株主の頂点にホリエモンが立っている姿は正しくミニ国家の元首であり、それだけの人々(個人投資家)が堀江を支えているという「政治力」に着目したからこそ、小泉政権はホリエモンを自民党に引き込もうとしたのだ。
しかし、思いもよらぬ誤算が生じた。堀江が大統領制の導入を主張したことを右翼団体や自民党内の国粋主義者たちが天皇制の否定ととらえ、猛烈に反発したのだ。堀江は右翼団体から脅迫を受け、街宣車がライブドアの本社のあった六本木ヒルズに押し寄せた。当時の自民党執行部は、こうした状況を見て公認を見送った。
ホリエモンは拝金主義者か?
堀江が東京地検の家宅捜査を経て逮捕されると、新聞社説やテレビのコメンテーターたちは、一斉に「拝金主義者」として堀江のことを糾弾しはじめた。
確かに堀江は「カネで買えないものはない」といったが、同時に、カネで買えないモノがこの国に存在していることはおかしいといっている。すなわち、出自や身分、格式といった、どんなにカネを積んでも買えない封建的な遺制がのこっている社会はフェアとはいえないと主張した。
実際、この主張にそってニッポン放送、フジテレビの買収に乗り出して失敗したわけだが、4年前の日本には、少なくとも規制緩和や民営化が是とされ、ライブドアのような企業が、株価の時価総額パワーを背景にフジテレビのような企業を買収するという下克上の世界が存在していた。
ホリエモンの頭上には、実体はともかく可能性の青空のようなものが広がっていて、彼を取り巻いていた若者たちもホリエモンの姿に明日の自分の姿を重ね合わせていたことは確かである。
しかし、堀江自身も著書の中で書いているように自分でも気づかぬ間に「虎の尾を踏んでしまった」。権力装置の中枢までズカズカと踏み込んできたナイーブな青年実業家の振るまいを、マスコミや検察の内部に勢力を持っている青白い国粋主義者やエスタブリッシュメント層の連中が嫌悪して潰しにかかったのだ。
堀江が理解できていなかったのは、国家は会社とは違って、自律的に暴力装置として機能する存在であるということだ。国家の存立基盤に触れてくるような異分子に対しては、国家権力は徹底的に潰しにかかる。堀江が、もとから政治家を志望するような権力志向をもった政治的人間であったならば、こうした権力装置が発する「暴力」の気配を嗅ぎつけて、途中で軌道修正して、うまく折り合っていく可能性もあったかもしれないが、堀江の知らぬところで牙が向けられ、破局は突然訪れた。
ホリエモンの粛清後に出てきた格差問題
かくしてホリエモンは潰された。
そして、ホリエモン的なものを粛清した後に日本社会に新たに浮かび上がってきたのが、「格差問題」である。
世間では、小泉政権下の構造改革によって格差が助長され、絶対的貧困が増大したと、今や、麻生太郎も民主党も大合唱している風があるが、そこには政治的な嘘がある。格差が広がっているのは、むしろ今であり、その元凶は、現在も進行中の景気の悪化である。小泉政権下、景気回復が進んでいた2003年からは、ジニ係数も低下するなど、むしろ格差は縮まる傾向にあった。日本において、ホリエモンや郵政民営化に象徴される「構造改革路線」が、格差や貧困を広げたというのは政治的なデマに過ぎない。
さらにいえば、ホリエモンを潰したことこそが、実は「格差問題」を社会問題化させた主犯ではないかと考えている。
ホリエモンが体現していたベンチャー的な生き方とは、大企業に所属せず、猛烈に働いてのし上がり、小企業が大企業を飲み込んでいくという下克上的な世界のロールモデルになっていた。その下克上の夢が潰えたことで、閉塞感が一気に日本の若者達を覆うことになった。
「ホリエモンも潰された。もう、この国には出口が無いのか」という思いにかられ、大企業に正社員として就職している彼とフリーターの我との間に横たわる差が、あらためて埋めようのない「格差」として意識され始めたのである。
フリーターという言葉は、本来、雇われないで自由に生きていくという新しい価値観を体現していたはずなのに、今では格差社会の底辺部のことを指す、甚だ自嘲的な言葉に様変わりしてしまった。
希望の喪失こそ格差問題の本質
若者世代における格差問題の本質とは、現時点における実際の経済的格差よりも、将来にわたってもその差が縮まらない、あるいはその格差が拡大していくイメージしか持てないという「希望」の喪失にある。
ホリエモンのブームに代わって、「蟹工船」がベストセラーになったというのが、このことを端的に表しているだろう。つまり、ホリエモンの活躍に喝采していた若者たちが、今の日本においては「この先どうにもならない」と絶望し、蟹工船の主人公に自分を投影するようになってしまった。村上龍の小説「希望の国エクソダス」の主人公の言葉のように「この国には、全てのものがあるが、希望だけが無い」ことが最大の問題なのである。
今回の総選挙でも格差問題が重要な争点の一つになっている。そのこと自体を否定はしないが、若い世代の人々には、富の配分の問題としてこの問題に取り組んだら消耗するだけといいたい。むしろこうした問題の立て方そのものを疑ってみるべきであり、格差問題を言い出したとたんに、実は、現状の社会の枠組みを肯定しているに等しいということを知るべきだろう。
例えば、格差を是正するという立場からトヨタに対して期間工や季節工などの待遇改善を求めていくことなども無駄とはいわない。しかし、他方で、自動車業界でこれから進行するのは、環境技術を軸にした破壊的なイノベーションであり、業界の風景そのものを根こそぎ変えてしまうような地殻変動である。米国では、ビッグ3の覇権は崩壊し、代わって電気自動車(EV)ベンチャーが続々と生まれている。いずれその中の何社かは、恐竜のようなビッグ3やトヨタをも脅かす存在になるだろう。この国の外に出れば、米国や中国の「ホリエモン」たちが小回りをきかせて巨大自動車産業に対して下克上を仕掛けようとしているのだ。若者がコミットするストーリーとしては、時給を100円アップしろという話より、トヨタを食ってやるという話のほうが、よほど希望にみちているのではないか。
(カトラー)
関連記事:幻獣リヴァイアサンになりたかった男 ~堀江貴文の蹉跌~
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コメント
日本の国家元首って天皇陛下だぜ?
投稿: | 2009.08.11 17:12
事後報告で申し訳ありません。 昨日Twitterでこの記事を取り上げましたら、私経由で125アクセス、私を参照した人経由と合計すると今現在で187アクセスがTwitter経由でこの記事にアクセスしています。
ホリエモン自身もTwitterに参加しているので、本記事を読んでいるのではないかと思います。
これからも宜しくお願いします。
投稿: porcobuta | 2009.08.12 07:56
堀江もんが捕まった時に感じていた事、
胸の中にあった蟠りがズバッとまとめ上げられていて
なんか非常にすっきりしました!
この時以来、日本には
ジャーナリズムなんてのは存在しない、
あるのはイエロー・ジャーナリズムのみ
一億層白知化を経験し学習した国民も
さすがにもう今更騙されませんよね?
ちょっと自信ないけど...
投稿: 765 | 2009.08.13 00:14
porcobutaさん、765さん、コメントをありがとうございます。twitterでご紹介いただいたとのこと、ありがとうございます。まだ、登録していなかったので、これを機に、katoler_genronというハンドルネームで参加して、porcobutaさんをフォーローさせていただきました。
さて、ホリエモンを潰したのは、天皇制を信奉する政財界のエスタブリッシュメント層、それに同調するマスコミ内の国粋志向の強い一握りの青白い連中です。ですから、この問題がおきた時から、非常に陰湿なものを感じていました。ホリエモンがメディアを買収しようとしたこともあり、彼を擁護するようなマスコミはほとんどありませんでした。ホリエモンの失墜で、規制緩和や郵政民営化、成長戦略を言うことが唇寒しという状況が生まれていますね。
投稿: katoler | 2009.08.13 02:29
違いますよ。希望がないんじゃない。努力せずに成功ばかり欲しがる連中が大多数で、ホリエモンみたいに会社起こして社会に発言するのは例外として扱った方がいい。だから2ちゃんとかで匿名でダラダラ言い合いするのが好きなんでしょ。言い合いする暇があったらさっさとモノ作れ。議論はそれからだ。
投稿: | 2009.08.13 09:30
突然お邪魔します。DOAとしておいてください。
で、小泉さんは試合のルールも審判も何も考えないでゲームを始めてしまった。性善説を信じているのかも?
投稿: hbc | 2009.08.16 14:18
これは、素晴らしい仮説だとおもいます!。多くの気づきに満ちてます。ありがとうございます。
投稿: 加藤順彦です | 2009.08.23 23:04
日本はもう終わった国ですよ。
この国で希望を語るなんて・・
希望が欲しいならアメリカか中国でしょう。
投稿: JO | 2009.11.14 15:04