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政権交代後のシングルマザー社会と「のんちゃんのり弁」商店街の関係

Photo 建設が進んでいる東京スカイツリーの足下、墨田区の京島に「キラキラ橘商店街」という私の好きな商店街がある。ここを舞台に「のんちゃんのり弁」という映画が制作され、先週からロードショーが始まった。

物語は、親のすねをかじっているだけのダメ亭主に見切りをつけた、小西真奈美が演ずる主人公、小巻が、幼稚園児の一人娘、のんちゃんを連れて家を飛び出す場面からはじまる。小巻は母親の住む墨田区、京島の実家にまい戻って仕事を探すのだが、子連れで何のスキルも持たない主人公に世間の風は冷たい。

シングルマザーとして生きていく現実の厳しさに一時は途方に暮れるのだが、商店街の人々から支えられながら、得意の料理の腕前を生かして弁当屋を開くまでが描かれている。

女たちが自立して生きていくことの哀しみ

映画作品としては、コミカルにテンポよく展開していて楽しめる良い作品だが、扱っているテーマは大変重い。主演した小西真奈美がインタビューで答えているように、この物語で描かれているのは、子供を抱えながらも母親として生きるのではなく、「守るべきものを持って、でもそれを守るだけの手段を持たない女性が、社会の中で独り立ちしていく」ために格闘する姿である。
この映画を観ながら、自然と映画「かもめ食堂」のことが思い出されていた。以前このブログで「かもめ食堂」のことを取り上げたことがあったが、2つの作品に共通して通奏低音のように流れているのは、女たちが自立して生きていくことの哀しみである。その調べは、1978年に中島みゆきが作った「かもめはかもめ」という歌にまで遡ることができる。

「かもめはかもめ」

あきらめましたあなたのことは
もう電話もかけない
あなたの側に誰がいても
うらやむだけ悲しい
かもめはかもめ 孔雀や鳩や
ましてや女にはなれない
あなたの望む 素直な女には
はじめからなれない
青空を渡るよりも
見たい夢はあるけれど
かもめはかもめ ひとりで空を
ゆくのがお似合い

(1978年中島みゆき作詞・作曲)

「のりちゃんのり弁」の主人公、小巻は31歳という設定だから、ちょうとこの歌が世に出た1978年に生まれたことになる。それから31年経って小巻はシングルマザーとなって不況にあえぐ平成日本のスクリーンに登場してきた。

シングルマザーがこれからの日本社会の中で、大きな存在感を持ってくるだろう。
それは、今後も離婚率が上昇し続けることと、他方で民主党新政権が出生率を引き上げる方向に大きく舵をきりはじめたことが関係している。
民主党が掲げている「子供手当の支給」に代表される一連の子育て支援策は、先進国の中で唯一、出生率を上昇に転じさせることに成功したフランスの施策を下敷きとしており、日本でも将来的にはフランスと同様にシングルマザーが急増することになるだろう。

政権交代後の日本が直面するシングルマザー社会

もちろん、民主党とてシングルマザーを増やすことを最初から意図していたのではないが子育てに伴う経済的、制度的な支援が進み、並行して離婚率もこのまま上昇していくなら、シングルマザーは必然的に増加することになる。母子家庭の世帯数は、年々増加を続けていて、現在は120万世帯余りと見られが、今後はさらに加速がつくだろう。つまり、高度成長期には当たり前と考えられていた「両親と子供2人」という家族モデルが大きく変質していくというのが、政権交代後の日本が直面している新たな現実なのだ。

Photo_2 市場も動き始めている。出版不況の中、ギャルママ雑誌が部数を伸ばしていて、街中を歩いていても超ミニやホットパンツを穿き、キャバクラ系のメイクでばっちりきめた「ギャルママ」がベビーカーを押している姿を目にすることが多くなった。

シングルマザーのことを彼女たちは「シンママ」と呼び、ギャルママ雑誌の読者モデルをやっているシンママが今やカリスマになっているそうだ。そこには、とりあえず昔の「母子家庭」につきまとっていた暗いイメージはない。

少子化対策先進国のフランスでは、さすがにギャルママはいないだろうが、フランスの子育て事情に詳しく、「Avec ma Maman―子どもと行くパリの旅案内」 という好著を書かれた、にむらじゅんこさんによればパリでは子育てがブームとなり、子供関連ビジネスが盛り上がっている。モード界も子供ファッションに注目し、新しいブランドやショップであふれているという。大人の街パリは子供に優しい街に変貌した。とすれば、日本も数年先には、渋谷のセンター街が、乳母車をひくギャルママたちであふれかえっているという光景が生まれているかもしれない。

はみだし者を受け入れる商店街の寛容さ

渋谷のセンター街がシンママたちの町になるかどうかは別にして、この映画で描かれているようにキラキラ橘商店街のような場所が、「両親と子供2人」という高度成長期の家族モデルからはみ出てしまった人々の受け皿になる可能性は大いにあるだろう。商店街には、さまざまなバックグランドを持った人々を受け入れる寛容さと、よそ者であっても手を差し伸べる「友愛」の精神がまだ生きている。
そう思って、商店街を歩いている人の顔をもう一度よく見てみると、シンママだけではない、「おひとりさま」らしき負け犬世代の女性や、犬を散歩させている、一人ぐらし感を濃厚に漂わせているご老人、そして、さして用事もないのに商店街の空気を吸いにくる私のような中年オヤジがウロウロしている。

東京スカイツリーを背にして、ベビーカーを引いたギャルママたちがこの商店街を闊歩するのもなかなか良い光景かも知れないと思った。

(カトラー)

P.S

さて、せっかくだから終わりに、キラキラ橘商店街のガイドを・・・・ 人生に疲れたあなたやシングルになる可能性が強いあなたは、ぜひ足を運び、癒しのひとときを過ごすことをおすすめします。

Hatoya ①コッペパンのハト屋
この商店街の名物で、ここにくると必ず買い食いするのが、ハト屋のコッペパン。ピーナッツバターを塗ってもらって、1本150円。昔と変わらないコッペパンを売っているのは東京の中でもここぐらい。

②喫茶?ペロケ
どのようにしてこういう業態になったのか一度じっくり聞いてみたいと思うのだが、ラーメン、ケーキ、あんみつ、純喫茶、ヤキソバが、この店では渾然一体となっている。
この店の居酒屋風のテーブルに坐って、あんみつとラーメンのセットを頼んで、珈琲を飲んでいると、不思議なことに世の中のたいていのことはどうでもいいと思え、許せる気になってくる。

Peroke

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コメント

カトラー様
 面白そうな映画、それも邦画でご紹介ありがとうございます。yahooで上映映画館を検索したら全国で14館しかありませんでした。これは自分のような土着自営業者には辛いです。評判が広がって近所の館が拾ってくれるのを期待しています。
 最近の邦画には小品ながら小粋な作品が増えてきているような気がします。逆に言うと邦画もガラパゴス化して日本人にしか分からない、とか言い出されそうでチョット嫌な予感もします。


                    popolo

投稿: popolo | 2009.10.08 16:26

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