百年デフレと卵かけごはん(T・K・G)の味
日銀は1日、臨時の金融政策決定会合を開き、10兆円規模の新たな資金供給手段を急遽(きゅうきょ)導入することを決めた。金融市場に国債などを担保に期間3カ月の資金を年0.1%の固定金利で供給する。(産経ニュースより)
デフレが止まらない。
日本の消費者物価は99年度から下落を続けている。右に示した消費者物価の推移が、日本経済が置かれている状況を端的に表している。08年からエネルギー・資源価格の高騰などによって、総合指数は一時的に上昇したが、それを除けば、他の物品の価格は一貫して下落しつづけていることがわかる。右肩下がりのデフレが基調としてダラダラ続き、その下降線を間歇的にバブルが引きあげるという現象が繰り返されていることがわかる。
ここに示されている2000年以降のデフレとは、バブル崩壊後の「失われた10年」の延長としてあるのではなく、もっと構造的な変化がグローバルな規模で進行していると見るべきだろう。
グローバリゼーションが招いた百年デフレ
バブル崩壊以降に進行したのは、土地本位制の崩壊を前提とした「資産デフレ」であったが、2000年以降進行している物価の下落は、程度の差こそあれ世界の先進諸国において共通して見られるもので、グローバリゼションが根本的な要因である。
世界が市場として統一され、中国などの新興国に生産拠点が移転、安い労働コストとIT革命による生産性の向上によって大量の低価格の商品が国境を超えて怒濤のように流れ込むことになった。ユニクロが史上最高益をたたき出し、イオンが880円でジーンズを販売できるというのも生産拠点のグローバル化・海外移転と徹底した効率化を可能にしたIT革命がもたらしたものである。
同等の品質のものがより安く買えるようになるデフレは国内消費者にとって恩恵であると同時に、物価の下落が、経済収縮と賃金の下落を加速させ、さらにデフレが進行するというデフレサイクルを生み出す元凶にもなっている。
エコノミストの水野和夫氏は、現在、われわれが直面している、こうした「デフレ」を大きな歴史的転換点における構造的なデフレとして「100年デフレ」と名づけている。
水野氏によれば、歴史的に見れば、世界経済は以下に示すように4回の歴史的デフレを経験しており、現在は、その4回目のデフレに直面していることになる。
①14~15世紀:モンゴル帝国崩壊による貨幣収縮
②17世紀:イタリアからオランダへの覇権移動
③19世紀:国民国家の統一
④21世紀:ソ連の崩壊と大競争時代
そして、世界的なデフレをもたらしている最大の要因が資本利潤率の低下にあると指摘している。
かつて、世界経済は、米国、欧州、日本の3極で構成され、先進諸国が生産する製品を購入するのもこの3極域内の消費者だったが、今や、日本や米国の消費者は、車や家など大型の耐久消費財を買わなくなってしまった。世界経済の最後の買い手といわれた米国民も、サブプライムローンの破綻に端を発するリーマンショック以降は消費を抑え、借金を返し、貯蓄率が上昇しつつある。かくして、資本は先進諸国に高い利潤をあげることのできる市場を見つけることが困難になってしまった。
日本の土地バブル、米国の住宅バブル、いずれも行き場のなくなった余剰マネーが、バブルとして噴き出したものだ。その背景には、先進諸国市場の成長力が衰退し、数パーセントの利回りを確保できる投資事業が、どこにも見当たらなくなってしまったことがある。
新興国の設備投資もデフレリスクに
一方で、世界経済の中で高い成長を示している中国など新興国市場のポテンシャルに大きな期待が集まっているが、一般国民の購買力の伸びを上回る規模とスピードで設備投資が進んでおり、国内の需給ギャップがどんどん拡大しているという実態がある。
中国当局は、暴走しつつある設備投資の引き締めに躍起になっているが、近い将来、現在の設備投資は膨大な供給力過剰となってはね返ってくるだろう。世界経済にとって、中国の成長も巨大なデフレリスクとしてのしかかっている。
鳩山民主党政権は、現状を「緩やかなデフレ状況にある」との認識を示し、日銀の白川総裁の尻をたたいて、10兆円規模の新たな資金供給策の実施を承服させた。
しかし、こうした措置によっても「百年デフレ」を退治することはできないだろう。各国の金融当局は、需給ギャップを埋めるため、超金融緩和策をとっていて、日本の金融施策は、明らかに出遅れているとはいえ、仮に他の先進諸国と同様に需給ギャップを埋める金融緩和策を行ったとしても、デフレ基調が反転させることは難しいのではないか。
実際、これまでの金融緩和策がもたらしたものは、インフレではなく、バブルであった。全世界の余剰マネー(過剰流動性)は140兆ドルという巨額な規模に達しているが、それに対して中国、インド、ロシア、ブラジルといった新興国の経済規模は全部まとめてもGDP総額で20兆ドルに過ぎない。その7倍規模のマネーが行き場を失っているわけだから、資本利潤率が低下するのが当たり前なのである。
仮にこの地球上に今の新興国グループをあと7つ作ることができるなら、帳尻が合うかもしれないが、その前に地球が壊れてしまうだろう。
じゃぶじゃぶのマネー地獄にはまった世界
かくして、余剰マネーは、バブルに向かうしかなくなる。バブルの崩壊は金融システムを傷め、その都度、金融緩和策がとられるものだから、さらに余剰マネーが拡大して、世界はじゃぶじゃぶのマネー地獄の中で、底なし沼にはまったようにゆっくり沈んでいく。これが、今の世界が直面している危機の本質である。
もう、潮時だと誰もが思い始めている。しかし、次はどこに向かえばいいのか。
日本のデフレは失われた10年も含めれば、15~6年の長きにわたっている。これまでだって十分にしんどいのに、百年デフレというからには、この後、さらに85年も現在のような厳しい経済環境が続くことを覚悟しなくてはならないというのだろうか。
この際だから考え方を根本から変えて見ることも必要だ。よくよく考えてみれば、それは、案外、単純なことかもしれない。一切の「インフレ期待」を捨て去ってみればいいのだ。
思いつくままに言ってみると、百年デフレ下では、借金は年々重くなるだけだから、ローンなどは組まないようにする。新しいモノを買うのではなく、今あるものを使い続ける。できれば、食糧は自給し、貨幣経済への依存を下げる。ブランド品よりも自分に合った安くて良い物を見つける目を養う。4~5%の運用利率を前提にした年金は、取り崩されていき、いずれ破綻するから、他の老後の自立手段を考える。・・・・
あなたが、身近な所に幸せの青い鳥を感じることができる人なら、百年デフレもまんざら捨てたものではないのかもしれない。
デフレ日本でブームの卵かけごはん(T・K・G)
先日、日比谷の帝国ホテルの前を歩いていたら、インペリアルタワーのCHANELショップの向かいに「たまごん家(ち)」という名前の新しい居酒屋がオープンしているのを見つけた。
「卵かけごはん」が売り物の居酒屋で、他のつまみも含め、出すメニューは全て1品305円。帝国ホテルの目の前でこの安さは何だ?と思い、店に入り、売り物の「卵かけごはん」を注文した。
実は、私は卵かけごはんに目がない。飲んで帰った夜や休みの日など、ごはんに卵をかけグチャグチャ、ズルズルとやっている。「他にいくらでも食べるものがあるのに」と家人からは顰蹙をかっているが、これだけは止められない。
世間では「卵かけごはん」はT(たまご)K(かけ)G(ごはん)と呼ばれ、今やデフレ下の日本で全国的にブームとなっている。18歳のプロゴルファー石川遼君が「僕はたまごかけごはん!」と叫ぶCMを記憶している人も多いだろうが、卵も米も国内自給率がほぼ100%なので、卵かけごはんが普及することは、自給率のアップにつながると、このCMは農林水産省が広告主になっている。
さて、その居酒屋の卵かけごはんだが、305円ながら、米と卵にはとことんこだわっているとのことで、大変美味だった。
茶碗に口をつけて一気に卵かけごはんをかき込んで、居酒屋の窓の外の帝国ホテルに目をやりながら実感した。
「ああ、これが百年デフレの味だ」
(カトラー)
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