トヨタ“シロ裁定”に潜む、TPPの罠に覚醒せよ

「娘もトヨタ車買った」 米運輸長官、厳しい攻撃から一転、安全宣言
ラフード米運輸長官は8日の記者会見で「娘もトヨタ自動車の車を買った」と述べ、安全性にお墨付きを与えた。1年前は議会で「運転をやめるべきだ」と話すなど厳しいトヨタ攻撃で物議を醸しただけに、この日の会見は“安全運転”に徹した。(
MSN産経ニュース

米運輸当局がこれまでの強硬姿勢を一転させて、「トヨタ車の電子制御システムに問題はない」とする最終的な“シロ裁定”を出した。トヨタ攻撃の急先鋒だったラフード米運輸長官は記者会見で、自分の娘からトヨタ車を買いたいといわれ、「トヨタ車は安全だ」と自らがお墨付きを与えた話などを披露し、これまでの態度を一変させてトヨタ車を持ち上げて見せた。

米国側がこうした異常とも思えるリップサービスを行っているのは、トヨタ車に対する過去の行き過ぎたバッシングの罪滅ぼしということではなく、この1年間で日米政府およびトヨタのような日本を代表する輸出産業との間で何らかの合意、握りが取り交わされたことを物語っている。その見返りが、今回のラフード運輸長官のリップサービスに見られる、米国市場におけるトヨタの信用回復というわけだ。

一転、トヨタの信用回復に動いた米国の意図

そして、日米政府そして日本の輸出産業の間で取引された、その合意、握りとは何かといえば、日本のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加に他ならない。以下に、2009年以降の動きを中心にトヨタリコール問題とTPPの動向を比較できる年表(クリックすると拡大します)を作成したが、これをあらためて眺めると、この2つのテーマが正に不即不離の形で進展してきたことが見えてくる。

Toyota_recall_tpp

そもそも米国のオバマ政権が、TPPへの参加を表明した背景には、リーマンショック以降の苦境が続く米国経済の立て直しを図るために打ち出した「輸出倍増計画」にある。これは、米国からの輸出を倍増させて、貿易不均衡の解消と国内産業の活性化および雇用の確保を目標に、昨年1月のオバマ大統領の一般教書演説で述べられたものだが、大方は、その実現性を危ぶんだ。景気低迷の中にあっても、米国が現在でも世界一の内需・消費大国であることに変わりはない。その米国が一転して、モノを売る方に回るというわけだが、世界中で一体どこの国が米国製品の買い手となり得るのか。

急速な経済成長で確かに中国などアジア新興国の購買力は高まっているとはいえ、今の新興国市場が米国製品の輸出倍増の受け皿になるとはとても考えられない。例えばアップル社の製品のほとんどが中国、台湾のEMSで製造されているように、そもそも米国製造業の製造拠点の海外移転が限界まで進んでおり、今更、製品輸出に貢献する産業を国内に見つけようと思っても難しい状況だ。

また、中国に関しては、中国人民元の固定為替レートを保持している限りは、TPPのような包括的な枠組みに参加すること自体が不可能だ。となると、米国製品の受け入れ先として残る標的は日本だけである。

TPP加入は実質、関税自主権の放棄

京都大学の中野剛志准教授が指摘しているように、TPPとは、米国が輸出倍増計画のもと日本を標的に打ち出した通商貿易戦略に他ならない。中野准教授も指摘しているように、TPPに加入を表明している国のGDPシェアを比較してみれば、そのことは一目瞭然で、「米国が7割、日本が2割強、豪州が5%で残りの7カ国が5%。これは実質、日米の自由貿易協定(FTA)」(中野剛志准教授)に他ならない。

ただし、FTA(自由貿易協定)であれば、2国間で関税品目等を協議して決められるが、TPPの場合は、2015年までに原則全ての関税をゼロにすることを前提としているわけだから、これは実質的な関税自主権の放棄に等しい。逆にいえば米国側の関税も取り払われるわけだから、自動車のような日本の工業製品を売り込み易くなるという見方もできる。しかし、米国も含め各国が通貨安競争に走る傾向が強い現在のような世界経済の下では、そうした希望的観測は全て裏切られることになるだろう。トヨタ車の信用が地に墜ちて販売台数が激減するのを尻目に、米国市場で大幅にシェアを伸ばしたのは韓国ヒュンダイだが、トヨタの信用失墜もさることながらウォン安の追い風を受けたことが大きく働いた。
要するに凋落したGMに代わって世界一の自動車メーカーになったトヨタを、米国は、円高と技術欠陥デマを流布することで完膚無きまでに恫喝し屈服させたのだ。

かくして、トヨタのようなグローバル輸出企業にとって残された選択は現地化である。米国市場ではトヨタに先行して現地化を進めているホンダの現地化比率が実に70%に達している。米国が今回のトヨタのリコール問題への対応を通じて発しているのは、「トヨタも米国内で車を売りたいのなら、ホンダのようにもっと現地化を推し進め、工場もヒトも米国内で調達しろ」というメッセージなのだ。

米国のターゲットは農産品、医薬・医療、金融

一方、TPPという万能鍵を得た米国は、虎視眈々と日本市場をこじ開ける機会を狙っている。そのターゲットは、農産品、医薬品・医療サービス、そして金融である。中でも農産品はTPP加入の人身御供として差し出されるといっても過言ではなく、既に日本のメディアでは、国内産業の就業者比率で5%、GDPに占める比率では1.5%に過ぎない農林水産業が抵抗勢力になって「第三の開国」を阻み、日本の輸出産業の足を引っ張るのかというナイーブな論調が支配的になりつつある。

確かに、日本の農林水産業には抜本的な構造改革が必要だ。しかし、それは日本側の事情と戦略に基づいて進められるべきだ。

仮にTPPが導入され2015年までに農産品の関税障壁が取り払われたら、大規模化が進んでいるといわれる北海道等の農業生産者であっても全く太刀打ちできず、壊滅的な打撃を受けるだろう。TPP議論に関しては、小泉政権時代の構造改革論者や経済学者までが勢いづいて、米国の外圧を利用して構造改革や規制撤廃を進めるチャンスというようなことを言い出しているが、そんな与太話には間違っても乗ってはいけない。繰り返していうが、TPPとは米国製品を日本に買わせるために仕組まれた米国の戦略であり、相手の戦略に乗っかって自国民を利することなどできるはずがないからだ。

現地化とTPP支持の見返りだったトヨタの信用回復?

もう一度、私が作った年表に戻ってほしい。
管首相がTPP加入検討を言い出したのが昨年の10月、そのわずか1ヶ月後に開催されたAPECでは、オバマ米大統領を議長とするTPPの枠組みが実質的に決められた。この時点で日本の輸出産業のTPP参加の支持とトヨタの米国市場での信用回復までのシナリオがほぼ決定されたと見ていいだろう。

トヨタは米国における更なる現地化の推進、そして日本国内においてはTPP参加支持に回ることを前提に米国内での信用回復という企業として大きな見返りを得た。一方、管直人率いる現政権は、国内輸出産業や経団連等の財界、経済団体からの支持を得られという見通しから、米国追従という、かつて辿った道に再び舞い戻り「第三の開国」を言い出したのだ。
ちなみに「第三の開国」とは、私がこのブログで3年前に言い出した(関連記事参照)ことである。管首相が私のブログを読んでそのキーワードをパクったのかどうかは知るよしもないが、言っていることの中味は全く異なる。私が主張した「第三の開国」とは、移民の受け入れも含めてアジアに向かって国を開くことを意味しており、管の言うように米国の前に三度ひれ伏すことではない。

管直人「第三の開国」の虚妄

先週まで出張で北海道の人々と仕事をしていたが、地元はTPP加入問題で相当ピリピリしていた。北海道の農林水産業の命運がこの問題には絡んでいるわけだから無理もないことだ。もし、TPPが発動されたら北海道は独立すべしと私は言っている。
リンゴ、さくらんぼ、牛肉とこれまでも農産物自由化の波はあったが日本の農産品は生き残ってきた、だから今回も何とかなるはずで、反対しているのは、農協だけだというナイーブな議論を展開する経済学者もいるが、彼らは北海道の農業の現場の声を一度でも聞いたことがあるのか。
TPPで標的になるのは、米や大豆、とうもろこしといった主要農産物である。リンゴやさくらんぼといった高付加価値化が可能な嗜好作物ではない。
北海道は、遺伝子組み換え作物の導入を拒否する決議を行っているが、TPP加入によって、先ず米国が標的にするのは、このあたりになるのではないか。関税障壁を無くし防御手段を喪失させ、格安な米国の農産物が怒濤のように押し寄せてくることに恐怖を抱いた日本の農業生産者に対して、遺伝子組み換え作物の種苗を採用するか、米国からの価格破壊の農作物輸出を受け入れるかの二者択一を迫るのだ。

当然、北海道の農民としては、米国農産物の価格破壊により壊滅させられるより、遺伝子組み換え作物の受け入れに踏み切るしかなくなるだろう。米国は国策会社のモンサント社を通じて食料資源戦略を世界的に発動しており、その基本戦略が遺伝子組み換え作物の世界的な普及推進である。米国モンサント社は、ベトナム戦争で悪名高い枯れ葉剤を製造していた化学会社で、その後は農薬を製造していたが、チマチマ農薬を造っているより、その農薬に耐性のある遺伝子組み換えの種苗を生産する方が百倍儲かると現在のような企業に様変わりした。しかし、この会社は、私にいわせれば人類史に残る極悪な企業だ。

何が極悪かといえば、遺伝子組み換え種子の知財権を握り、世界中の農民を支配・搾取し、食料を米国の覇権構築の手段にすることを明確に意図しているからだ。しかも、その意図を実現するために、自社の種苗の安全性は確認されているとし、自然界の作物が持っている遺伝子を汚染することを厭わない。ブラジルのように遺伝子組み換え作物を拒否していた国に対しては秘密裏に遺伝子組み換えトウモロコシを密輸してばらまき、在来種の遺伝子を汚染させ遺伝子組み換え作物を既成事実化させるというようなあくどい所業を行っている。

TPPが発動されれば、北海道の大地は、こうしたモンサントのような企業に蹂躙されてしまうだろう。管直人は、日本の土と作物を汚染させた文字通り「売国奴」として末代まで糾弾されることになる。

(カトラー Twitter:  @katoler_genron

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8.30総選挙で、麻生自民は農村部でも惨敗する    ~自民農政に対する百姓一揆が始まった~

Photo_2 東京都議選の自民党の大敗から麻生おろしの声が噴出したのに対し、麻生首相は予告解散という異例の手段にうって出た。

麻生退陣と総裁選の前倒し実施を要求する反主流派の封じ込めを狙ったもので、執行部の切り崩し工作が功を奏し、21日には予告通りに麻生首相の下で解散がおこなわれ選挙戦に突入する。

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ばらまき補正予算の影で進行する日本農業の緩慢なる死

Photo8月にも想定されている衆議院総選挙に向けて、地方票の取り込みを狙った農家へのばらまき・アナウンス合戦が激しさを増している。

そもそもの発端は、先の参議院総選挙で、民主党の小沢一郎代表が農家に対する「戸別所得補償」という政策をぶち上げ、自民党の牙城ともいえる農村票を鷲掴みにして、参議院総選挙に大勝、参議院における与野党、逆転状況を作りだしたことにあった。

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米粉が日本の農業を救う?

Spe1_ph_07_2 米粉が入ったパン、麺、スイーツなど米粉入りの食品をあちこちで目にするようになった。

先日もスタバで1個320円で売っている「米粉ロールケーキ」を食してみると、食感がふんわりと柔らかで、なかなかいけると思った。カリスマパティシエとして有名なモンサンクレールの辻口博啓シェフもスイーツ向けに小麦粉を100%代替えできる米粉「リファリーヌ」を製粉会社と共同開発して、その米粉を使ったスイーツを色々作って評判をよんでいる。

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